ええと…ですね
実際のところ、これを声だかに言って受け入れてもらえるとは思ってないんですけど
とりあえず言っときますね。
なんでもかんでも「デジタル」と呼ばないで下さい。
ここ10年ほどのアニメーション業界のいろいろな変化について見聞き・体験して痛切に感じていることなのですが、「デジタル」という単語はもう使わないほうがよろしいかと思います。
たしかに、従来なかったモノがコンピュータの導入で実現したような場合に
「アナログ○○」対「デジタル○○」
という対比は、たいへん単純でわかりやすい(ように感じる)ので、流れてしまいたいキモチはわからないわけではないですが… 職業人としては、そりゃただの「現実逃避」ですよ。
新しいモノに名前をつける時に安直に「デジタル○○」って名前を付けるのは、もうやめてください。ただの混乱のもとです。単なる「思考停止」のキーワードになっちゃってます。
ちょっと例を挙げて「こまったちゃん」をみてみましょう。
「デジタルT.U.(T.B.)」
…意味が良くわかりません。
かなり一般化してるみたいです。良く聞きます。
使われ方としては、従来のフィルム撮影の時に一部で通用していた「スーパーT.U.(T.B.)」に対応するモノとして使われてるようです。
すべての素材を同じレート(=比率)で拡大(or縮小)するのでなく。レイヤごとに別々のレートでスケーリングして実写映像の トラックイン・トラックアウト の効果をねらう場合に使われています。
効果の名前としては、トラックイン/トラックアウト (これは従来からある)
処理方法の名前としては、マルチレートスケーリング (マルチスケール M.S.)
などが適当かな?
それともCCDカメラの「デジタルズーム」に刺激されてできた単語なのかしらん。アレは同じカメラ内でレンズ系の拡大とソフトウェア処理の拡大がふたとおりあってそれを区別するためにできた(カメラメーカーが作った)単語ですが、「画像処理ソフトにデジタル処理以外の拡大処理はありえない」ので分ける必要はありませんよ。と
どっちにしても、「スケーリングの指定は付けてください」
「デジボケ」
ってナニ ? 時々見る。デジタルボケ?
「フォーカスがズレているカンジを出すためにぼかして欲しい」のだと思いますが、「ボケ」とか「ボカシ」とか「ピンぼけ」じゃだめなのかしら?
セルや、背景の取り込みに線画台(レンズ系デジタイザ)をつかっているスタジオなら、従来のレンズを使ったボカシもできますが、一般的な状態で「デジタル(コンピュータ処理)で」と断る必要はないですね。何か違うものが欲しいのかと深読みしちゃうのでやめてほしいです。
効果の名前としては、オフフォーカス・ピンぼけ・ボカシ (これは従来からある)
処理方法の名前としては、ぼかし
(ぼかしのアルゴリズムや具体的なフィルタ名の指定でも可・ただし取引先のスタジオで作業可能か否かは要確認)
などが適当かな?
「雨(雪) デジタル処理、よろしくお願いします。」
いや、「よろしくお願いします」自体は良いのですけど、「雨(雪)の入り方(多い・少ない)」とか「方向」とか「サイズ」とか、指示を入れてくださいって。
チェックするヒトは、指示が入ってなかったら原画さんや作監さんに入れてもらってください。撮影オペレータじゃ判断できないことがたくさんあるんですから。(技能的にできないわけじゃなくて、判断する立場にないんで…)
作業指示はちゃんと出してください。
「そこは、デジタルでもうなんか良い具合に…」**
アホか! 冗談でいうとるんならともかく、なんも意味なんかないやんけ! 責任放棄もええかげんにさらせ!
(**冗談でも言わないでくださいね。言われた側は、「腹がたつ」か「軽蔑する」だけでゼンゼン和みませんから。)
全般的に感じることは、「デジタル~」の呪文を唱えて 必殺の「あ、オレ、わかんねーから。あと知ってるやつよろしくたのむは」を発動するヒトが多いことです。
この単語には、今やそう言う「思考停止」を引き出すだけの言霊が宿ってしまいました。
ある程度はしょうがないとは思いますが、この状態が蔓延すると、処理を「理解している人間」と「理解していない人間」の間に「理解しようとする人間」がいなくなっちゃって(極端な二極化)現場が崩壊してしまう恐れがあります。
「デジタル」という単語は、「わけわからんコンピュータなモノ」に形を与えて分けて呼ぶには便利ですが、「分けて」「安心して」「思考停止」していたんじゃ理解は進みません。一括りによけてしまうにのは範囲が広すぎて危険が多すぎです。
みなさん、まず「デジタル」を「NGワード」にして 「それぞれ」にふさわしい「別の名前」を考えてみてください。
頭の体操をかねて、新しい名前を考えてみるのはいいんじゃないかと思うです。
余談:
撮影(コンポジット)指示の際に、ねらっている「効果」と、効果を実現するための「処理」は、分けて考えた方が良いです。効果は、そうそう増えたり変わったりはしませんが、処理は、現場の工夫やソフトの変更などでガンガン変わる可能性があります。同じ処理がスタジオによってはつかえなかったりするので。演出さんはできる限り「処理」でなく「効果」で指定を出すようにしたほうが良いと思います。「効果」を「処理」に適切に置き換えるのはコンポジットオペレータの仕事だと思います。
さらに余談:
昔、同じような呪文で「オプチカル~」って呪文がありましたっけ…
一頃は、「CG(シージー)~」って呪文もありましたねぇ(これは現役かな?)
この辺の呪文は、昔は予算の潤沢な作品でしか唱えてなかったような気もしますが…
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